東京地方裁判所 昭和42年(ワ)2715号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕被告装置の内筒は、その上端をクリップの取付螺杆を利用して帽筒内に固着し、帽筒を軸筒の後端に嵌挿した場合、その下端を導体に接触し、帽筒を介して軸筒と導体とを接続させて一方の回路を閉成し、電球を点燈できるようになつており、この点は本件実用新案の装置における螺旋状ばねの場合と異るところがない。しかしながら、被告装置における可動接点である内筒は、下端を四片に切り分けた筒状のものであつて、本件実用新案の装置における可動接点である螺旋状ばねとはその構造を異にする。ところで、本件実用新案の装置において可動接点として螺旋状ばねを採用したのは、このような螺旋状のばねを用いると、固定接点との接触部分が線状を呈して比較的鋭くなるうえその有する弾力がばねの伸縮により生ずるものであるだけに極めて豊富であるから、固定接点との接触が安定して確実になるとともに、特に筆記用具の使用により生ずる振動で帽筒が微動してもなお安定した確実な接触を保つことができることに着目したからである。このことは、成立に争いのない甲第一号証により認め得る本件実用新案出願の願書に添附された明細書における考案の詳細な説明欄中に本件実用新案の考案の目的の一として「電球の点滅操作を帽筒の抜き挿しによつてなし故障がない……点滅装置を持つ製品を提供するにある。」と記載され、次いで、本件実用新案の装置の持つ作用効果の一として、「螺旋状ばね7は……弾性を利用して弾圧的に接続して、回路を閉成しているので、使用中回路を開く虞れなく、」と記載されていることからも、窺い知ることができる。これに対し、被告装置を備えたポールペンであることにつき当事者間に争いのない検甲第二号証によれば、被告装置における可動接点としての内筒は、その下端の四つに切り分けられた突片の内面が固定接点である導体の外周面と嵌合するようにしてあるため、接触部分が面状を呈してややもすれば接触が散漫となり勝ちである。その上、内筒の有する弾性も金属製突片の半径方向の拡開により生ずるにすぎないものであるだけにさして豊富でないから、特にポールペンの使用により生ずる振動で帽筒が微動するような場合には、ややもすれば導体との接触に安定を欠き、使用中回路を開くおそれがないとは保証できないことが認められる。しかしながら、被告装置の内筒は、筆記用具の使用を止めて帽筒を軸筒に嵌挿するとき、帽筒を軸筒に嵌合するための挾持片、すなわち、俗にかつらといわれ万年筆、ポールペン等の帽筒に一般に設けられている部材の作用を果し、本件実用新案の螺旋状ばねに期待することのできない効用を有していることが前記検甲第二号証および本件口頭弁論の全趣旨から容易に認められる。従つて、被告装置の内筒は、その構造の点においても、作用効果の点においても本件実用新案における螺旋状ばねと異るものといわなければならない。従つて、両者の差異を単なる設計上の微差というわけにはいかない。
してみれば、被告装置の(ハ)の構造(編注、(ハ) 帽筒6内に、下端を四片に切り分けた金属製内筒(以下「内筒」という。)7の上端をクリップ12の取付螺・13を利用して固着すること)は、この点において本件実用新案の(3)の要件(編注(3) 帽筒内に螺旋状ばねの上端をクリップの取付螺旋を利用して固着すること)を具備していないから、被告装置は、本件実用新案の技術的範囲に属しないことになる。
三 よつて、原告の本訴請求は失当であるから棄却……する。(古関敏正 吉井参也 小酒礼)